"Linking mantle plumes, large igneous provinces and environmental catastrophes"
S.V. Sobolev et al., Nature, 477, 312-316 (2011).

ペルム紀末の大絶滅は，その壮絶さから多くの研究者の興味を引いてきた．何せ世界の生物種の90%が絶滅，海洋生物種に限れば95%以上などと言う凄まじい絶滅っぷりである．さらに急激な気温変動があるわ，酸素濃度は10%ぐらいに一気に低下するわといった事が全世界的に起こっている．
この大絶滅に関してはわからないことも多いのだが，様々な年代測定法の進歩や，次々と掘り起こされて分析されるサンプルの増加などによりかなりいろいろなことがわかってきている．まだコンセンサスが取れるところまでは至っていないが，主流の説はおおよそ以下のようなものである．

・パンゲアの形成により，地熱が外部に逃げにくい領域が形成される．
・その領域下部の温度が上がり，深部からスーパープルームと呼ばれる巨大なマグマが上昇してくる．
・現在で言うシベリアあたりに膨大な溶岩が噴出し，現在のシベリアトラップ（シベリア台地）となる．
・これに伴い，凄まじい量のガスが放出される．
・この時放出された硫化水素などによる直接的な大絶滅と，その後の温室効果ガスによる気温上昇による海洋循環システムの激変により大絶滅．

基本的にはこんなもんだろうと考えられているのだが，いくつか問題も残っている．その一つが，現在のシベリア台地の規模（＝噴出してきた溶岩の量）から考えると，それほどの激変を起こすのに必要とされる各種ガスの量に足りない，というものだ．
今回の報告は，実はこの時吹き上がってきた溶岩の大部分は元々海洋性地殻だったものだという発見とそれに基づくシミュレーションにより，このギャップを埋めるものとなる．

彼らはまず，シベリアトラップの各所で採取した岩石を分析し，そこにおけるNiOなどの量が多いことに気がついた．シベリアトラップを形成している玄武岩がもし地下深くから上がってきたスーパープルームそのものだとすると，非常に高温の状態を経由するためこのような組成にはならないらしい．分析結果から，彼らはシベリアトラップを形成する岩石の10-20%は海洋性地殻が元になっていると推定した．元々海底だった地殻が海溝に引きずり込まれると，深部に沈み込む前にしばらく地殻の下あたりで滞留している．この(今で言う)シベリアの地下に留まっていた「元海底」の塊に対し，地下深くからスーパープルームがぶち当たったと考えたわけだ．

こうなると何が変わってくるのか？
それは，吹き上がってくる溶岩の組成である．スーパープルームが直接吹き上がってくる場合には，深部の岩石の組成を持った溶岩が吹き上がってくる．こいつには二酸化炭素などの揮発成分がそんなに多くないことが知られている（高温の場所にいたので，揮発成分はかなり分解するなり飛び去るなりしている）．ところがスーパープルームに巻き込まれた海洋性地殻が吹き上がってくると，その組成は海底とほとんど変わらないため相当な量の炭酸塩をはじめとした塩類を含んでいる．つまり，放出されるガスの量がこれまでの推計よりも圧倒的に多くなるのだ．
今回のモデル計算による推定される二酸化炭素放出量はおよそ1.7*10^14トンで，これまでの推計（噴出物が全て深層から来たと仮定）の数倍に及ぶ．また，HClも1.8*10^13トン噴出するそうだ．

また，これまでに知られていたもう一つの問題として，ガスが短期間に多量に噴出しないといけない，というものがある．ちまちまとガスが出てきても，生態系などを通して吸収されてしまうため実際に起こったような破滅的な自体には繋がりにくい．ところがシベリアトラップにおける溶岩の噴出は結構な時間がかかっており，溶岩自体から放出されるガスは比較的ゆっくり出てきたはずだ，と言うのがネックになっていた．
今回の発見に基づく計算では，この点もクリア出来る．海洋性地殻がプルームに巻き込まれると，温度が一気に上昇する．これにより，海洋性地殻の分解により多量のガスが発生，溶岩そのものが噴出する前にガスだけがまず一気に吹き上がってくるのだ．これにより周囲に高濃度の塩酸，二酸化炭素等がばらまかれ，全世界的に海洋の急激な酸性化を引き起こし大絶滅が進行，さらに温暖化による環境激変も加わって破滅的な自体へと進展するのを横目に見ながら，溶岩はゆっくり大量に噴出していく，という事になる．

起こった事象の規模が規模なだけに，出てくる数字もとんでもないことになっていて感覚的にはよくわからんところに行っているが，やはりこういうダイナミックな話は読んでいて面白い．
……まあ実際起こると面白いとか言ってられなくなるのだが．